派遣法改正案は抜け穴だらけ

この国は、まともに派遣労働をつくる気はないらしい。

市場経済グローバル化で企業が生産拠点を海外に移した結果、正社員であった層の3分の1が、不安定な非正規雇用派遣労働者に置き換わってしまった。

経済変動の激化に派遣労働が必要であるなら、あおりを受ける派遣労働者を支えるサーフティネットが不可欠だが、国は、派遣労働者が納得できる「均等待遇」や「派遣先の責任強化」を整えようとしない。「均等待遇」も団体交渉も認められない働き手を放置すれば、賃金は上がらず、デフレ克服につながらない。

国会で審議中の労働者派遣法改正案に対して修正を求める動きが相次いでいる。改正案の問題点は、「派遣労働の原則禁止」としながら、例外規定が多すぎて、企業側に都合のよい抜け穴だらけになっているからだ。派遣先の派遣元への責任転嫁も改善されないままである。派遣労働者保護の欠如から骨抜きの法案となってしまい、いったい何のための改正なのだろうか。

仕事があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣は、専門的の高い「26業務」を、製造業派遣は長期の雇用契約を結ぶ「常時雇用」を例外にしたことから、ほとんどの派遣が従来通り認められてしまう懸念が出てきた。

改正案の目玉である、違法派遣があれば、派遣先が直接雇用を申し込んだとみなす「直接雇用みなし制度」にも不安がある。「みなし制度」の問題点は、派遣社員のときの労働条件と同じでいいとされ、短期契約や低賃金が改善されないことである。また派遣先が違法行為と知らず、知らなかったことに過失がなければ、「みなし制度」の対象にならない条項になっている。これでは、従来と変わらず、派遣労働者が声を上げても救われない。

改正案の骨組みを話し合う労働政策審議会の公益委員は、政権交代前と変わらず、労働側委員に派遣労働者の代表はゼロ。労働者保護に値する抜本的改正には程遠く、派遣労働者の声が反映されていない。

派遣法は、派遣先企業が派遣社員を「事前面接」で選別することを目的とした行為を禁止している。改正案では、自民党前政権の改正案をベースにして、「派遣先の事前面接の解禁」を進めていた。この条項は、派遣労働者から「容姿や年齢差別、性差別の温床」と批判されると、削除されたが、委員たちは、「労使合意の尊重に反する」と抗議したという。

多くの正社員がリストラされて派遣労働者になっている厳しい現実があるにもかかわらず、正社員代表である連合は、賃上げのことしか考えていない。本気になって、労使交渉の場で、経営者側に強く派遣労働者の「均等待遇」を訴えるべき立場なのに、派遣労働者の声を反映させず、派遣改正案の成立を急いでいる。

また派遣法改正で、「事前面接」を経団連と合意事項にした連合は、 派遣労働者の利益を代表しているとは思えない。大企業の労組や公務員労組が集まった連合では、まともな派遣労働はつくれない。

まして組織率が20%に届いていない労働貴族の連合が、労働者の代表として政府にもの申したり、財界と協調したりすることは、日本の労働者にとって不幸である。民主党政権は、支持母体である連合だけを労働者の代表として扱っているが、中小企業労組である全労連全労協の声も労働行政に反映させるべきである。

ストをしない労組は、欧米ではあり得ない。 欧米の労組に比べて企業に協力的な連合が労働運動をまったくしないため、日本の労働者は浮かばれない。労働条件の悪化に抵抗するべき労働組合が無力になっている。 

企業別労働組合は、正社員の減少に抵抗できず、組合員数を減らし続けている。終身雇用が崩れている以上、労組は、弊害ばかりの企業別労働組合ではなく、欧米のように、労働条件の基本が社会的横断的に決まる産業別労働組合に改組すべきである。

いくら派遣制度をいじっても実態に即した対応がなされなければ、真の労働者保護につながらない。改正案は構造的な問題に切り込もうとしていない。形だけ整えても、何の意味もない。

国のやるべきことは、派遣制度の見直しばかりではなく、不安定な雇用制度で困っている派遣労働者セーフティネットの充実を図ることではないのか。

非正社員も正社員と同様に、「同一価値労働・同一賃金」による賃金方式が欧州で広まっている。そうした方式を日本社会で実現させていくためには、どうしたらいいのか熟議が必要である。

国は、派遣労働者が望む「均等待遇」を進めるためにも、当事者の声を国会に反映させるべきである。