医師不足、看護師不足の医療崩壊

海外では診療ができる看護師資格の導入が広がっている。医師不足による医療崩壊の日本でも、厚労省が、高度な医療行為ができる新資格「特定看護師(仮称)」の導入を検討しており、モデル事業での検証がスタートする。

医療崩壊を食い止めるには、医師不足の解消に取り組まない限り、危機は克服できない。日本の医療現場は、「医師でなくてもできることを医師が行っているから医師不足に陥っている」という実態が指摘されている。

また医師の絶対不足からくる医師(特に病院勤務医)の過重労働が常態化している。過酷な労働条件を嫌って病院を辞める医師は、後を絶たない。新研修医制度で新人医師が研修病院を自由に選択できるようになり、地方病院の医師不足が深刻になったからだ。

医師の過重労働解消のためにも、「特定看護師」など人材を集める政策が必要で、一定の条件下とはいえ、医師業務の一部を肩代わりできる特定看護師の導入は画期的である。深刻な医師不足や病院の診療科の休廃止が相次ぐ地方では、とりわけ期待が大きい。

米国では40年以上前に診療看護師(ナース・プラクティショナー)制度が導入されており、診療看護師の仕事ぶりは、「病床の記載の緻密さ」や「処置の丁寧さ」「患者への指導のきめ細かさ」などから、医師よりも優れている面が明らかにされている。また一足早く医師の指示なしで診断や治療をする「診療看護師」が定着しており、小児科や産科の診療所で活躍しているという。

さらには診療看護師や栄養士が生活指導を行い、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満など生活習慣病を減少させ、医療費の削減が可能になっている。薬物投与のみでは、治癒効果に限界があることが示されている。

今や医療と看護や介護の領域は重なり合っており、全体としてのチーム医療が重要になっている。臨床医療は、もはや医師のみの診療領域ではない。医業の高度化、専門化が進んでいる今日、医師がすべての業務に通じて、対応することはできない。また高齢化が進んで生活習慣病などが主流になった今の時代に対応できていない、との指摘がある。医師不足が深刻な現場からは、医師と看護師らが協力する中で、看護師らの役割が広がることへの期待が高い。

むしろ看護師は医師より患者に目線が近く、患者をよく見て判断できる。実際に、経験を積んだ看護師は経験の浅い医師より医療に精通している場合も多い。医療に精通した看護師を養成して医師の診療行為の一部を担っていくことは、多忙を極める医師にとっても、より専門性の高い医療に専念できる利点がある。

なぜ、いま特定看護師の導入なのか。背景には、医療の高度化に伴って、医療現場においてどこまでが医師の業務なのか、どこまでが看護師の業務なのかについて明確になっていない「グレーゾーン」の業務が急速に広がっている現実がある。現行の法律では、医師法により、医療行為は医師しかできず、看護師ができるのは「療養上の世話や医師の指示下でする診療の補助」と保健師助産師看護師法保助看法)で定めている。

厚労省保助看法の改正も視野に入れている。しかし特定看護師の導入については、開業医中心の日本医師会が「特定看護師の奪い合いになり、チーム医療を行う地域医療が大混乱する」などと強く反発している。日本医師会は、救命救急士制度の導入にも最後まで反対し続けていた経緯があったが、医師の領域が侵されかねないという懸念が強いようだ。

現場の実情に即して医師、看護師、医療事務の業務分担を見直し、医療の質の向上につながるように、各自でレベルアップを図ることが必要でないのか。

そもそも医師不足になった背景には、自民党政権下での医療費抑制策と医師養成抑制策で、大学の医学部定員を削減してきたことにある。医師抑制策による医師不足は、地域医療の格差や診療科格差(特に小児科、産婦人科の不足)を招く結果となった。これを解消するには、医師抑制策が取られる以前の元の定員に戻すことである。そうすれば新たに医学部を新設する必要がなくなる。

他方で、医師の過重労働だけでなく、看護師の過労死も問題になっている。

看護師は、少子高齢化の影響で大幅な供給不足になっており、今後とも看護師不足は深刻化していく。また看護師の多くは女性で、結婚、出産・育児が離職の大きな理由になっている。

看護師資格を持っているけれど、出産や育児などで職場を離れた「潜在看護師」の数は約55万人にも上っている。「潜在看護師」が看護師としての仕事に復帰してくれれば、供給不足も緩和することになる。そのためには、「潜在看護師」の復帰支援や、再就職支援が必要である。また結婚しても安心して働きつづけられるよう、院内保育所の確保や産前産後の休暇、育児休暇などが十分にとれるよう代替要員の確保など体制を整えることが必要である。

さらには看護師の職業の幅を広げ、男性も看護師になりやすい状況を作って行くことも、必要ではないだろうか。