運用がデタラメな郵貯マネー

日本の郵政改革法案に米国と欧州が猛烈な勢いで抗議している。

郵便貯金の預入限度額の引き上げなどを実施すれば、民間との競争条件が不公平になることから、米通商代表部(USTR)がWTO世界貿易機関)協定違反として日本政府への圧力を強めている。新たな通商摩擦に発展する可能性が出てきた。

USTR側は納得せず、日本の外務省を通じて「揺さぶり」をかけ、条約局長や経済局長を含む財務・外務の官僚が、米大使館員と共に押し掛けてきたことから、亀井郵政・金融大臣は、脅しの片棒担ぐなんて許せないと外務省の対米追従を批判し、内情を暴露してしまった。

亀井氏は、政権交代以前から、郵貯マネーで米国債を大量購入して財政赤字で困っているオバマ政権の財政面を支えたいと主張していた。だが、ゆうちょ銀行の預入限度額の引き上げにより集まった資金で、米国にカネを貸そうと言っているのに、何で米国が郵政改革に文句をつけてきたことに対して怒り心頭であったようだ。

今回の郵政改革案に盛り込まれた政府の日本郵政への出資割合「3分の1」と、預入限度額「2千万円」は、参院選での50万近い郵政票狙いと言われている。

しかし鳩山内閣が進める郵政改革は、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の預金限度額を2倍に引き上げる金融肥大化路線である。

そこに大きな問題がある。ゆうちょ銀行は、お金を集める力は強いが、企業の将来性を見極めて融資するノウハウがないため、規模が膨らめば国債を買うしかない。国債購入が増えると、産業への融資が不足して日本の金融全体を歪めてしまう。

こうした批判をかわすため、閣僚らは国債以外の運用構想に熱心である。

亀井氏以外に、原口総務相はじめ他の閣僚からも、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の資金の約10兆円について新興国のインフラなど海外事業など国内外の公共投資などに充てようとする発言が出ている。海外のインフラ投資に回すのは、高速道路や水道整備、新幹線、原子力発電所の輸出支援などだ。日本版の政府系ファンドに民間資金を動員させて政策に運用させたい思惑がある。

だがそうした案は、かつての財政投融資の復活ではないか。郵貯マネーが特殊法人に流れ、無駄な事業の温床にした財政投融資と同じである。財政投融資はずさんな運用ばかりで、不良債権の山ができるだけだ。

日本郵政グループは、金融部門のゆうちょ銀行とかんぽ生命が保有する約230兆円の国債の運用益に支えられている。 日本郵政が発表した2010年度3月期決算は、純利益が4500億円で、他の大企業と比べても、NTTと肩も並べ、みずほフィナンシャルグループの2倍近い。

しかしデフレを脱却したときに、インフレ期待で長期金利が1%上昇するだけで、国債の評価額として16兆円の損失が発生し、巨額赤字に陥るシナリオが待っている。

そうなると、ゆうちょ銀行救済のため、巨額の税金投入を迫られる。結局は、郵政改革案は、国民負担を膨らませる政策である。たまらないのは、ゆがんだ金融システムを背負っていくことになる次世代の子どもたちである。全国郵便局長会(全特)の念願である郵政改革法案は、票目当ての材料にされている。票だけもらって子どもに負担させる政策である。

財政は巨額赤字で、金融危機への対応力はない。目指すべきものは、ゆうちょ銀行の肥大化でなく、スリム化でないのか。

鳩山内閣は財源論がないまま、子ども手当や農家戸別所得保障などのバラマキ政策ばかり発信する。その財源となる国債を調達するために、郵貯限度額などを引き上げて民間から資金を吸い上げようとしている。このままでは日本経済に深刻な影響を与えるだけである。