6度目の大量絶滅時代に突入した地球

授粉に欠かせないミツバチが狙われている。

農家のハウスから授粉用に使うハチの養蜂箱が盗難されたり、巣箱からハチだけ盗まれたりして昨年度だけで200万匹以上がさらわれたという。

その背景には、深刻なハチ不足がある。ハウス栽培で受粉作業を担うハチは、繁殖力などに優れたセイヨウミツバチが主流。輸入の約8割を担うオーストラリア産ミツバチに伝染病「ノゼマ病」が確認され、また世界的な原因不明の大量死も重なり、供給不足でハチの価格が高騰したためだ。

イカやリンゴ、イチゴ、ナスなど食卓に上る多くの食べ物の栽培には、ハチのような授粉を媒介する生き物が大きな役割を果たしている。

生き物が自然を創り出し、我々の生活は、生き物なしで成り立たない。地球上には、約3千万種(推定)の生き物がいて、お互いの微妙なバランスを保っている。この豊かさが生物多様性と呼ばれている。

生物多様性による様々な恵みは生態系サービスと呼ばれ、年間で5000兆円になるという。森林は、家をつくる木材を提供し、CO2を吸収し、酸素をつくり、山の土砂崩れを防いでくれる。干潟は、海をきれいにするし、渡り鳥の生息地になる。サンゴ礁は、魚の住処になるだけなく、津波の被害を防いでくれる。里地里山は、米や野菜、果物が実る。

自然の知恵に学ぶ技術も多い。カワセミのくちばしは、騒音を軽減する新幹線「500系」の先頭車両に、トンボの羽は、微風でも回転する風力発電用のプロペラに、静かに飛ぶフクロウは、風切り音を減らすパンダグラフに、応用されている。生き物は、理にかなっており、宝の山である。生き物の形や機能を工学に反映させる手法をバイオミミクリー(生物模倣)と呼ばれ、最先端の研究になっている。

また動物界の種数の75%を占める昆虫は、生物多様性を象徴する存在である。昆虫は体を小さく進化させることでニッチな環境に適応し、変態というライフスタイルを編み出したことで地中、陸上、空中へと環境の変化に適応している。モンシロチョウのサナギから抗がん物質が、カメムシの一種である吸血昆虫の唾液から脳梗塞心筋梗塞の抗血栓物質が、カブトムシから抗感染症の物質などが発見されており、昆虫が生産する物質の機能性や薬効性の研究開発は「インセクトテクノロジー」と呼ばれ、世界中の産業界から熱い注目を集めている。

しかし生物多様性は豊かだが、危機に瀕している地域である「生物多様性ホットスポット」が世界各地で増えている。

里地里山は、雑木林、水田、畑地、小川といった身近な自然があるばかりでなく、多くの野生生物が生息・生育する生物多様性保全する上で重要な役割を担っている。だが農山村は高齢化、過疎化で管理放棄、都市近郊は開発による土地利用転換が進み、里地里山は絶滅の加速が進む「ホットスポット」になっている。里地里山を維持していくためには、人による自然への働きかけを継続することが必要である。

国内だけの問題ではない。日本は木材や食料を多く輸入するため、海外の生態系にも甚大な影響を与えている。生物資源が豊なフィリピンなどは、原生林を切って木材を輸出した結果、森林が消失し、地下水は枯渇し、干ばつや洪水、土砂崩れ、山火事が頻発している。生物資源が豊な地域が、今や破壊の地域になっている。生物多様性が失われると、貧困を助長し、さらに生物多様性を破壊するという悪循環に陥っている。

里地里山的なランドスケープによってもたらされる多様な生態系サービスは、食糧安全保障、貧困、エネルギー問題、気候変動問題などを解決する糸口にもなっている。生物多様性を損失することなく、人と生態系の相互作用を通じて生態系サービスを最大化することが重要な課題である。

そのため、生物多様性保全の観点から、里山ランドスケープ管理の重要性が認識されている。里地里山に見られる自然資源の持続的な管理利用は、自然共生社会のモデルとなりうることから、環境省をはじめ、国際的に世界各地の自然共生社会の実現に活かしていく取組としての「SATOYAMAイニシアティブ」が推進されている。

地球には、過去5回の大量絶滅の時期があった。開発や動植物の乱獲、里山などの手入れ不足、外来種による在来種の生息危機、地球温暖化などによる現在の危機は、恐竜が絶滅した時に続く6度目の大量絶滅期と言われている。地球の歴史上で最も速いとされる今回の大量絶滅は、間違いなく人間が引き起こしたものだ。

人間は、世界中で開発を進め、原油から海の魚までありとあらゆる資源を好き勝手に乱獲している。しかし人間の暮らしが、生き物によって支えられていることを先ず理解すべきである。