ストリップ接待に見る金融業界の品格

ギリシャ財政破綻懸念に端を発した欧州の財政不安が、南欧から東欧のハンガリーまで伝染し、世界の金融市場を揺るがしている。世界金融危機第2幕の始まりである。

またリーマンショックによる「百年に一度の危機」の後始末である景気刺激策が、巨額な財政赤字となって新たな金融危機を生んでいる。

ギリシャは、公務員の数が多いのと年金の水準が高いことに加えて、政治家は腐敗し、税金逃れが横行し、産業は育っていない。改革を怠った結果、国外から調達した資金で、公務員の給料や年金の支払いなどに充てていた。ギリシャは、巨額の財政赤字を低く見せかける操作をして2001年にEU加盟した。そうとは知らない欧州の投資家や銀行は、ギリシャを信用し、安い金利国債を買っていた。

ギリシャの債務隠しに加担したのが、ゴールドマン(GS)を筆頭とするウォール街の大手投資銀行だ。ギリシャを含む南欧のユーロ圏諸国(イタリアやポルトガルなど)の債務関連統計の操作にも長らく手を貸してきた。GS側は、ギリシャ政府へ財政赤字比率を改善するために融資したが、借り入れを隠蔽するため、為替スワップ取引という形態で収入として計上させ、法外な手数料を得ていた。ウォール街の複雑な金融技術を通じて、債務ごまかしを手助けしていたのである。

ギリシャに限らず、欧州の多くの国は証券化商品やデリバティブなどの複雑な金融取引を使って、会計報告を実態より良く見せてきた。こうした金融取引を法外な手数料で引き受けてきたのが大手投資銀行だった。

大手投資銀行が行っていた金融取引は、2007年に米国のサブプライム危機が起きた状況と似ている。この時は、貸し倒れになるリスクの高い住宅ローンを証券化商品として大手投資銀行が束ねて投資家に売りさばき、金融のシステミックリスクを増大させた。

しかし投資銀行は、商業銀行と違って銀行預金のようなバッファーを持たないため、あっという間に手元資金が枯渇する弱みもさらけ出した。リーマン・ブラザーズの経営破綻はその象徴である。

オバマ政権とFRBが行った緊急経済対策と超低金利政策の相乗効果による金融危機対応で、金融不安はほぼ消え去り、巨額公的支援を受けている金融業界は、息を吹き返した。過去最高の報酬を社員に振る舞える状況を取り戻している。

だが巨額報酬復活の実態が明らかになり、金融機関の巨額報酬に厳しい目が向けられ、オバマ米大統領は、金融危機対策で投入した公的資金の回収と報酬抑制を狙った「金融危機責任税」の創設を打ち出さざるを得なくなった。

米国での金融機関幹部の巨額報酬スキャンダルは、米国だけでなく、フランスでも持ち上がっている。金融機関への公的資金注入に対するフランス国民の感情的な不満は強く、政府は批判の矛先が当局に向かぬように、金融機関の締め付けを一段と強化している。

ウォール街の金融機関が過大なリスクテイクに走る背景に、金融機関幹部に対する巨額報酬が元凶であるのは明らかである。金融機関は、巨額報酬を早く稼ぐために.過大なリスクを取る業務に走り、経営破綻したら納税者の血税が使われ、巨額報酬を先に受け取った社員は悠々自適のリタイア生活を実現してしまう強欲には問題がある。 報酬がある水準を超えると強欲が倫理観を凌駕してしまうのである。

ウォール街の巨額な出来高インセンティブ報酬対策をしない限り、金融危機を何回でも繰り返すことになる。米国会社法の仕組みでは、株主総会の議決によらず取締役会の決定で報酬を決定できることに問題がある。会社トップの報酬に対する株主のチェック機能が効いていない。

金融業界のモラルハザード(倫理崩壊)は、金融界のストリップ接待で全米のストリップ・クラブが繁栄しているとの最近の報道記事からも窺える(アエラ記事)。

ニューヨークの金融マンたちの接待は、ストリップ・クラブでの最高水準のステーキの食事とお目当てのラップダンスで米国金融マンや日本人が膝上でさわりまくっている。金融界のストリップ接待は、チップ次第でなんでもありの世界である。全米のストリップ・クラブが繁栄しているのは、金融機関の復活がその背景にあり、顧客の3割を金融機関関係者が占めている。米国では、ストリップ・クラブの支出は、ゴルフコンペやレストランでの接待と同様、税控除の対象になっているそうだ。

しかし金融業界に根付いた、儲けるためなら手段を選ばないやり方は共感できない。実体経済がボロボロになり、戦後最長という雇用減少に直面し、家計を引き締めざるを得ない庶民とすれば、血税投入で救済した金融機関の巨額報酬は、当然容認し難い。ストリップ・クラブで顧客の接待や商談が行われている慣行は、まして許し難い。

格付け会社もまた、寡占体質で競争がないため、ずさんな格付けを行っていたことが原因で、金融危機を招いたと批判されている。日本も含め、巨額な資金と複雑な金融技術を扱う金融界にモラルハザードが起こる度に、金融危機を招く体質には怒りを感じる。公益性を担うべき金融界の品格のなさが、世界中の人々を不幸に陥れている。