最小不幸社会にベイシックインカム導入

少子高齢化、年間3万人を超える自殺者、雇用、格差、不安定な社会保障など日本が抱える問題の多くは、経済問題に根ざしている。

日本は、先進資本主義国であるのに、ワーキングプア(働く貧困層)が多い。生活保護を受けている人が全人口の0.7%しかいないのに、生活保護水準以下の所得で暮らしているワーキングプアは、全人口の13%に上る。

日本の福祉システムは、企業が中心に担ってきたが、リーマンショック後、企業はその重みに耐えかねており、その役割を企業に担わせようとするのは、もう期待できない。

生活保護は働けない貧しい人を対象にしているのに、働いても貧しい人を救済する制度がないことが、根本的な問題である。ワーキングプアを見殺しにする社会になっている。

この問題の解決策として、新自由主義創始者ミルトン・フリードマンが、1960年代に社会保障を税に一元化する「負の所得税」を導入した。最低所得にも満たない低所得者から、政府が「マイナスの税金」、つまり最低所得まで所得を給付する制度である。「ベーシックインカム」や「給付付き税額控除」も、「負の所得税」である。

米国でも、「給付付き税額控除」という形で実現している。低所得層の社会参加を促して貧困を解決しようとする発想である。

政府が「ベーシックインカム」を支給して人々の生活を保障するしか、確実に貧困を解消する方策はないである。国民の生活に最低限必要な生活資源は、国が無償で提供することである。

八ッ場ダムのように無駄な公共事業では、投入したコストが鉄とコンクリートに消えてしまう。無駄に働いている仕事にコストを掛けることは、働かないことのコストより大きすぎる。むしろ国は無駄な公共事業をつくるより、直接、人々の所得を保障した方がましである。

ベーシックインカム」は、現行社会保障制度の仕組みで役割の重なる部分を解消し、一本化していく極めて効率の良いセーフティネットである。

ベーシックインカム」は直接給付の財源が問題となるが、著名エコノミストの計算によると、今の公共事業、農業保護、中小企業保護、生活保護費などの廃止に加えて、配偶者控除基礎控除、子どもの扶養控除などほとんどの控除を廃止すれば、直接給付できる予算が捻出でき、財政的に実現可能だといわれている。

菅直人新首相は就任会見で、「最小不幸社会」を作ることが政治の役割とし、その実現に経済、財政、社会保障を立て直す考えを明らかにした。「最小不幸社会」とは、不幸な国民を作らないことである。政治の仕事は、貧困や病気といった不幸を取り除くことではないのか。

菅首相が掲げる「強い経済、強い財政、強い社会保障」は、もともとはスウェーデン政府の理念でもある。スウェーデンは、高福祉・高負担の社会であるが、同時に強い競争力で成長している。北欧で国民負担率が高くても不公平感がそれほど強くないのは、負担と給付の関係が明確だからである。社会保障が充実していて失業しても高齢者になっても心配がない。

しかし日本では、高福祉・低負担によるバラマキ政策などの無駄な税金の使い方が多く、財政破綻を招いている。また自分の負担が自分の生活の安定に使われている実感がないため、重税感が強い。社会保障の負担と給付の関係を明確にして透明性を高めるには、高福祉・高負担の社会を実現するしかない。

世論調査などを見ても、高負担でも高福祉が良いと言う人は6割近くいる。日本人が望む社会は、米国型社会よりも北欧型社会であることは明らかである。

社会保障の充実と財政再建を両立させるには、現行の不公平で非効率な社会保障システムを改革する必要がある。その基本的な考え方は、年齢や地域、所属などでなく、個人の所得に応じて再分配を行なうべきである。

ベーシックインカム」導入で国民の生活が底上げされ、しかも将来への不安がなくなれば、消費性向が高まって内需拡大になるし、増税も可能になる。

民主党負の所得税モデルである「給付つき税額控除」の政策を掲げている。バラマキ政策より効果のある「負の所得税」あるいは「ベーシックインカム」を導入すべきである。