宇宙から地球温暖化を監視

7年ぶりの地球帰還を果たした小惑星探査機「はやぶさ」の活躍は、これまで宇宙に興味がなかった人の心もわしづかみにし、多くの人々に感動を呼んだ。

地球へ帰還できたことは奇跡的で、新型エンジンや自律航法などの日本の最先端技術を世界に強くアピールした。地球から遠のけば遠のくほど、指令が届くのに時間が掛かるため、ロボット技術による自律航行システムは欠かせない。「はやぶさ」は、カメラ画像などの情報を基に自分の行動を判断していた。日本の得意分野が生かされた形だ。

帰還したカプセル内に、少量の微粒子が入っていることが、宇宙航空研究開発機構JAXA)の分析で明らかになった。小惑星の物質であれば人類初の快挙である。

日本の優れた宇宙開発技術は、「はやぶさ」だけになく、世界初の温暖化監視衛星「いぶき」にも活かされている。

地球温暖化の原因である温室効果ガスが、地球のどこにどのくらいの濃度で分布しているかという「客観的データ」はこれまでなかった。

地上の観測ポイントは、200地点と少なく、その多くが北半球や欧米に偏在し、南半球や海にはほとんどない。温室効果ガス排出量は、各国の自己申告に委ねられているため、あいまいな部分が多く、各国が納得できる「客観的データ」がない状態が続いていた。

昨年、そうした事態を打開する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」が、日本によって打ち上げられた。そのおかげで、観測ポイントが全世界の5万6000地点に拡大し、「客観的データ」の提供が可能になった。

温室効果ガスは地表から出る赤外線を吸収する性質があり、宇宙から赤外線量を測定すれば、温室効果ガスの濃度分布がわかる。そのため、自然変動を含めた二酸化炭素の循環の全体像がわかるようになり、今後の温暖化の予測が正確になると期待されている。

「いぶき」は、国境の無い宇宙から温室効果ガスを測定し、「京都議定書」で定められた二酸化炭素の排出量削減に貢献することを目的とした人工衛星で、「世界共通の物差し」を提供することから、温暖化対策を大きく変えようとしている。

「いぶき」が地球を縦方向にサーチし、3日に一度、同地点にもどるため、最新のデータ更新が容易である。その結果、温室効果ガス分布の時間的変化を追うことができる。データ処理をすれば、各国の温室効果ガスの削減実施状況や、植林などで拡大した森林が、どのくらいの量の温室効果ガスを吸収しているかの状況もわかる。各国の温暖化対策を公平に監視できるシステムである。

中国は、気象観測データを国家秘密扱いにしており、情報公開していない。しかし衛星「いぶき」によって、見逃されてきたメタンガスの巨大排出源が発見され、実態を明らかにしない国に対して対策を促すことができるようになった。また世界各地のパイプラインから漏れる温室効果ガスも宇宙から発見でき、いち早い対策が可能だ。

地球の隅々まで観測できる「いぶき」によって、森林を守る新たな仕組みが拡がる可能性がある。途上国からは二酸化炭素排出量取引に「いぶき」のデータを活用しようと検討する国も現れ始めた。温室効果ガスの削減に向けた国際交渉が行き詰まる中、温暖化監視衛星「いぶき」が世界に変化をもたらしている。

これまで気候変動の科学的根拠を提供してきたIPCC気候変動に関する政府間パネル)のデータ捏造疑惑が報道され、IPCCの権威が崩壊しつつある。

地球温暖化を理解し、正しい対応をするには、地球の外から見るという「宇宙的視点」から「客観的データ」を提供することが必要不可欠である。

その意味で宇宙から地球温暖化を監視する「いぶき」の活躍は、期待以上である。排出量についてウソの自己申告をする国を減らすだけでなく、今後の地球温暖化対策の枠組みづくりに大きく貢献することは間違いない。