「失われた20年」が「失われた30年」に

日本は「失われた20年」がさらに続き、新たな「失われた30年」に突入した。先進国で日本だけがデフレ経済が続いており、物価が下落している。

物価が下落するのは、消費者物価全体の半分を占めるサービス価格が下がっているからである。サービス価格には賃金の要素が大きいため、物価の下落が進めば、賃金の切り下げに直結する。サービス価格の下落は日本だけの現象である。これをどうやって止めるのかが、問われている。

リーマンショック後の世界同時不況で、需要不足が顕著になり、35兆円も大きな需給ギャップがデフレになっている。このような状況下では、失業率が高止まりしたままで、非正規雇用者が打撃を受ける。明らかに供給サイドを強調する成長戦略だけでは不適切である。

デフレから脱却するためには、一刻も早く需給ギャップをなくすような政府・日銀によるマクロ経済政策(財政・金融政策)が必要である。日本を除く欧米の先進国は、金融危機による大きな需給ギャップを財政政策と金融政策によって完全に穴埋めしているからだ。

しかし、日銀はデフレと闘うべきなのに、金融政策だけでデフレ退治は難しいとし、需要喚起は財政政策だとしている。需給ギャップGDPの8%もあり需要自体が不足しているときに、流動性を供給するだけでは、最終需要は盛り上がらず、物価は上がってこないため、デフレから脱却できないという。さらに政府の役割のほうが大きいし、金融政策の議論よりも成長戦略の方が先だというのが日銀の言い分である。

デフレ克服には、成長戦略、マクロ経済政策、さらに財政再建の戦略という三つの柱が重要であり、すべてが一体となった取り組みが求められている。

成長戦略というのは、難問であり、簡単に答えを見つけられるほど容易なことではない。まして少子高齢化における成長戦略は、かなりの難問である。考えてから走るのではなく、走りながら考えることが必要である。実際、バブル崩壊後に実施された成長戦略がことごとく失敗している。しかし、「失われた20年」で停滞している今ほど、真正面からの成長戦略が求められている。

鳩山政権は、昨年末に「輝きのある日本へ」と題する「新成長戦略の基本方針」を打ち出した。その基本方針は、従来の公共事業による成長(公共事業依存型)や小泉・竹中構造改革による供給サイドの生産性向上(市場原理主義)にかわる第三の道として、地球温暖化少子高齢化などの課題解決に取り組むことで新たな需要を創出していくというものである。そのために「環境・エネルギー」「健康(医療・介護)」「アジア市場の内需化」「観光・地域活性化」を重点4分野とし、国民生活向上に主眼をおいた新市場や雇用の創出を進めるとしている。

野心的な成長戦略であるが、果たして、本当に実現するのだろうか

民主党の成長戦略は、自民党政権が繰り返し打ち出してきた成長戦略と本質的に変わらず、各省庁のビジョンをただ束ねてものに過ぎない。各論になると、その具体策や工程表は先延ばしのままである。

新たな成長産業を育てるには、日本固有の問題が多い。先ず、財政赤字で、新たな成長産業を育てる財源をどこから持ってくるのか、また少子高齢化社会を乗り切る上で、子ども手当や高校の実質無償化、崩壊寸前の国民医療の立て直しなどが急務であるが、それらの政策を支える財源が必要である。

政策を実行するための財源を確保しようとしても税収が不足している。それをカバーするために国債を増発すれば、償還負担が重くなる。その結果、低成長に至る。デフレはこの悪循環を慢性化させる。

大幅な財政赤字は、圧倒的な税収不足が原因である。消費税増税や高額所得者の累進課税などを前提とした社会保障制度改革を打ち出す方が、有効な景気対策であり、鳩山首相の言う「人間の幸福を実現する経済」への近道になる。