ゲイツ原発は必要なのか

地球温暖化の懸念や原油価格の高騰で、再注目されるようになった原子力発電。CO2削減という口実により、世界中で原発増設のラッシュが続いている。

主要8か国(G8)に中国、インド、韓国を加えた11か国による2008年の「青森宣言」以来、多くの国が原発推進に積極的である。中国の原発建設計画は100倍以上、インド、東南アジア、中東など新規に導入する計画が目白押しである。

原発の市場規模は170兆円に膨らみ、原発バブルとなっており、原発受注合戦が過熱している。

しかし日本の原発メーカーは、途上国における原発建設の受注を、新興国のロシアや韓国に相次いで奪われてしまい、原発ビジネスの勢力図が大きく変わった。ウラン原料の精錬から原発運転まで一環して任せられる体制が求められるようになったからだ。

危機感を持った日本企業や政府は、官民共同の「原発輸出会社」の設立を立ち上げた。原発ビジネスは、原子炉建設だけなく、廃炉の解体も莫大なビジネスになるため、電力会社、プラントメーカー、ゼネコンにとって安定した収入源である。民主党政権原発政策は、自民党政権以上に原発ビジネスを積極的に推進する姿勢を示している。

原発市場が盛り上がる中、マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツ東芝と組んで新顔として原発ビジネスに参入してきた。

ゲイツが出資する原子炉開発ベンチャーの米テラパワー社は、TWR進行波炉)と呼ばれる次世代原子炉を開発しようとしている。TWRは、燃料である劣化ウラン核分裂性プロトニウムへ徐々に転換する原子炉で、再処理や濃縮を必要としない。ゲイツ原発は、高速増殖炉もんじゅ」の親戚みたいなもので、いわばミニもんじゅである。

だがTWRのネックは、エネルギーを取り出す冷却材にナトリウムを使用するため、ナトリウム漏えい対策の維持管理がやっかいである。さらに何十年間も稼動し続ける原子炉のため、長期の放射線照射に耐えられる構造材が不可欠で、実用化するには未解決の課題が多いとされている。TWRはまだ机上の理論だ。理論を形にするには、「もの作り」の能力が欠かせないため、ゲイツ東芝が開発中の超小型高速炉(高温の液化ナトリウムが循環する)をお忍びで見学に来たと報じられた。

しかし実用化まで何十年かかるかはわからない「夢の原子炉」に依存しなくても、小規模の発電装置が利用できる時代になっている。

火力発電所、自動車、工場 焼却場などからの廃熱が、未利用のまま大気中に大量廃棄されている。工場など産業用に使用されるエネルギーの約4割は、廃熱として捨てられている。すべて活用できれば、国内の全原発分に匹敵するエネルギー源となるという。これを回収・有効利用する技術への関心は非常に高い。 

これまで宙に消えていた工場のわずかな廃熱で電気を起こす「プチ発電」が広がっており、工場向け発電装置の開発合戦が始まっている。排ガスの熱による発電機スターリングエンジンも実用化されている。企業にとって自社のCO2ガス排出量削減は収入につながることから、廃熱発電の需要増加が見込めるとして新たなエコビジネスが育っている。

原発による核分裂エネルギーの3分の2は、発電所からの温排水や送電線からの送電ロス(廃熱)という形で、直接環境に捨てられている。しかも遠隔地からの電気を家庭や工場で再び熱に戻すのは、非効率な使い方である。電力も地産地消にすることで、送電ロスがなくなる。そのため、消費地域での廃熱を利用するコージェネレーション・システムにより、発電しながら廃熱で冷暖房や給湯を行うことが盛んになっている。

原発はCO2を出さないが、放射線廃棄物の処理方法がない。また原発の大量廃炉時代を迎えており、原子炉解体によりコンクリートや金属片などの放射性廃棄物が大量に発生する。さらに将来起こる巨大地震による原発震災への備えも十分とはいえない。原発などの大規模発電所に障害が発生したら、失った発電量を支えるだけの代替発電所が必要になる。

原発増設は、地域社会のためにもならず、次世代に莫大な負の遺産を残すことになる。放射線廃棄物の処理方法がない原発をつくらなくても、小規模発電による廃熱発電、太陽光発電 地熱発電風力発電などで安全なエネルギー開発を進めるべきである。分散化した代替エネルギーの進化で原発の比率を下げる努力が必要である。