無縁社会が深刻化する2030年問題

日本は、衰退してゆく経済の中で急速に「無縁社会」化している。100歳以上の高齢者が所在不明で大騒ぎになっているように、家族の絆がとっくに崩壊し、周囲との関係も断ち切られた孤独な人たちが存在する。絶望の海に浮かぶ「絶望の島」のようである。

世界金融市場の地獄が日本経済を直撃して、その不安定さゆえ、多くのコミュニティが崩壊しつつある。「無縁社会」の中で「おひとりさま」になり、リスクを個人で背負い込む社会に変わってしまった。

日本の社会保障制度は、これまで企業や家族をあてにしてきた。コミュニティとして機能していた企業はコスト削減を極限まで追い求めたことで、雇用が崩壊し、福祉が切り捨てられてしまった。さらに地域コミュニティの支えが崩壊するとともに人々の絆は薄れ、中高年の自殺や孤独死が増えたことから、孤立を支える無縁ビジネスが流行している。

一方で、「社会のゆがみ」が若者に押しつけられ、一生懸命まじめに働いても生活が成り立たない。不平等が固定化されているとして、多くの若者は希望が持てない現実がある。仕事に希望を持てないため、ひきこもりやニートが増加する。これは個々人の努力の結果とは言えない現実である。

今から20年後には、もっとリアルで衝撃的な未来図が待っている。

貧困化によって単身世帯数が急激に増加する。50-60代の男性の4人に1人が1人暮らしになり、社会的に孤立する。家庭を持たず、単身生活を続ける中高年層が都市部を中心に急増する。単身世帯は低所得のケースが多く、無職者や非正規労働者の割合が高い。高齢単身者は、年金額が低く、無年金者の割合も高い。高齢単身世帯の増加は、貧困問題をさらに深刻化する。「2030年問題」と呼ばれる「単身急増社会」の到来である。

また総務省の統計によれば、35~44歳のパラサイト・シングル(親と同居する未婚者)の数は約270万人に達している(2008年)。そのうち、完全失業者は8.2%で、22万人が親の収入や年金に頼っている。この中で問題となるのが、ひきこもりやニートが高齢化していくことである。40代半ばを過ぎた「ひきこもり第1世代」が、少なく見積もっても10万人以上は 存在する。あと20年経てば、彼らは老齢年金世代になる。

親の収入や年金でかろうじて生きているひきこもりの人たちは、親が死ぬと同時に生活の資金を失う。親が亡くなった後、彼らはどうやって生きていけばいいのか。ひきこもりの人たちに「親が死んだらどうする」と質問すると、殆どが「自殺する」「そのまま餓死する」と答える人が多い。

20年後の未来図は、無縁化、単身急増化、少子高齢化の悪循環で、自殺率上昇、年金制度の破綻、財政破綻を引き起こし、経済におけるすべての原理原則が破綻する最悪の結果をもたらす生き地獄である。

人と人をつなげる「ソーシャル・キャピタル」が減少すると、コミュニティが崩壊することが知られている。ケータイや、SNSソーシャルネットワークサービス) の普及などにより、人と人とが生に触れ合う機会の減少し、人間関係の希薄化がさらに助長される。コミュニティ崩壊の最大の要因は、世代間の変化にある。一日中ケータイで通信している若者は、サイバーコミュニティを築けるが、上の世代は、会社や地域、家庭など伝統的なコミュニティが破壊されると、コミュニケーションの場を失ってしまう。

現代資本主義の暴力によって、伝統的なコミュニティが破壊され尽くされてしまった「無縁社会」は、国民全体で解決しなければならい課題で、問題意識を共有すべきである。「無縁社会」の中で、どんなコミュニティが再建できるか方策が必要である。この問題に向き合うことなしには、よい社会をつくり、そこで生きることはできない。

NHKの「ハーバード白熱教室」で有名になったマイケル・サンデル教授は、人が社会に埋め込まれた存在であることから、コミュニティ再生に向かう方策が必要だという。さらにコミュニタリアンであるサンデル教授は、個人がコミュニティとしての責任を負い、公共問題に熱心に取り組み、何が本当に大事か活発に議論する市民社会の重要性を語っている。

今の日本社会は、強いものを礼賛し、弱っているものを虐げる傾向がある。虐げられた弱い者は、更に弱い者を探して、悲劇を連鎖させていく。

個人を守る社会モデルにつくり変える必要がある。人々の絆を中心とした「支え合う社会」の創出である。人々のつながりには力があり、そこから何らかの価値創造ができる。市民活動を通じて人と人とのつながりである「ソーシャル・キャピタル」を培養する政策が求められる。

参考になった書籍1冊

単身急増社会の衝撃単身急増社会の衝撃
(2010/05/26)
藤森 克彦

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