大きく後退した地球温暖化対策

地球温暖化への対応を巡って、米国など先進国を中心に推進力が大きく失速している。世界的な景気低迷で、温暖化対策の理念よりも産業界への配慮が先行しているからだ。

米国では、民主党が、排出量取引制度の創設を含む、包括的な地球温暖化対策法案の上院審議入りを断念した。共和党は企業のコスト負担増やエネルギー価格の上昇を理由に反対しており、民主党内でも、11月の中間選挙を控えて規制の影響を受ける電力業界などを支持基盤とする議員から反対の声が強まっているため、成立のメドが立たないからだ。米国民の関心は景気と雇用にあり、温暖化対策から離れている。

京都議定書に背を向けたブッシュ前政権の路線転換を図り、指導力を発揮しようとしたオバマ政権は厚い壁に直面し、米国の地球温暖化対策が大きく後退した。

ポスト京都議定書の枠組み作りに、世界のCO2二大排出国である米国、中国のコミットメントが不可欠なのは、両国が対象外となった京都議定書の教訓であったはず。11月に開催予定の気候変動枠組み条約締約国会議(COP16)で、ポスト京都議定書の枠組み作りについて実効性のある合意に達することは困難となった。

米国を抜いて最大排出国になった中国への働きかけでも、米国の存在は欠かせないとされていただけに、米国の後退は、そうした期待を裏切るものである。

米国以外でも地球温暖化対策の後退が目立っている。日本や欧州でも動きが鈍く、年内に具体策で合意するのは難しい情勢となった。世界的な景気低迷で、各国が景気対策財政再建などに労力を費やしているため、温暖化対策どころではないからだ。

2020年までに温暖化ガスの1990年比25%削減を目指す日本政府は、排出量取引制度の導入を盛り込んだ地球温暖化対策基本法案を再提出する予定であったが、ねじれ国会となったため、いまの形では難しい状況になっている。フランスは産業界の意向を受け入れ、「経済成長、雇用、競争力、財政赤字の削減を優先する」との理由で、3月に炭素税導入を既に断念している。

年末に結論が出なかった場合の問題となるのは2012年に期限が切れる京都議定書と、それを引き継ぐポスト京都の発効までの空白期間である。規制の空白期間をつなぐ措置として、京都議定書の単純延長を主張してくる可能性が高い。

空白期間への対処に熱心なのが欧州連合(EU)だ。EUは域内で排出量取引制度を運用しているため、国際的な規制の枠組みが無くなると、排出量取引に混乱が生じる恐れがあるからだ。

さらにEU排出権取引市場の排出権価格が不景気で低迷しているため、CO2削減目標を20%から30%に上げて、価格低下を防ぎ、排出権取引に莫大な投資をしているEUの金融機関を救おうという思惑がある。排出量の市場を維持するために、温暖化ガス削減に関する厳しい規制を続けたいのがEUの本音である。

途上国は、削減義務が課せられていないため、京都議定書の単純延長に賛成の立場だ。

一方、中国は、最大排出国になったにもかかわらず、京都議定書上では発展途上国に分類されており、2012年までは、温暖効果ガス排出の削減義務がない。中国政府は、ここにきて排出削減に積極的な姿勢を見せ始めており、先進国のすきをつくように、2011年から国内での排出量取引制度の導入を盛り込む方針を決めた。

中国は、10月には天津市でCOP16前の事務レベル作業部会を初めて主催するが、温暖化対策の「抵抗勢力」であるとの印象を薄めるため、自国に有利な状況を作り出して国際交渉の主導権も握ろうとするしたたかさが窺える。

これまで中国政府は、中国国民の1人当たりのガス排出量は、世界平均に比べればはるかに低いと反論している。米国人は1人当たり年間平均で28バレルの石油を消費するが、中国人はわずか2バレルである。これを理由に、中国は削減義務を回避してきた。しかし新興国といえども大量排出国を削減対象としないのは「公平性」から見ても問題であり、排出量削減義務を負う枠組みが必要であろう。