核兵器拡散を招く日本の原発ビジネス

長崎市の田上市長が、長崎平和宣言の中で「被爆国自らNPT(核不拡散条約)体制を空洞化させるもので到底、容認できない」と日印原子力協定の交渉を進める政府を非難した。

日本は唯一の被爆国として自ら核兵器を持たず、他国の核武装に協力しないことを国の基本方針にしてきた。核兵器保有しながらNPTに加盟していないインドとの原子力協定締結は、戦後日本が歩んできた核不拡散の基本政策を根底から覆すもので、NPT体制の崩壊につながる。NPT未加盟国には、原子力平和利用で協力しないことが国際社会の原則である。

インドとの原子力協定を例外として認めれば、核保有を宣言した北朝鮮パキスタンなどに口実を与える可能性がある。菅直人政権は国民に十分な説明もないまま、重要な政策を方針転換した。

なぜインドとの原子力協定なのか。背景には、地球温暖化対策で「原子力ルネッサンス」といわれる世界的な原発回帰による建設増への期待がある。特に経済成長が著しいインドは大幅増が見込まれ、世界中の原発メーカーの注目を集めていることにある。

インドの原発を受注した米国やフランスの企業は、提携する日本の原発メーカーが製造する原子力機器が欠かせない。米仏両国からの強い要請があり、インドとの原子力協定がないと、原発の輸出ができないからだ。

民主党政権の「新成長戦略」は、原発輸出を重視した官民一体のインフラ輸出を軸としている。米国、ロシア、フランスなどが次々と同協定を締結する中、「原発製造大国」の日本がインドでの原発建設の受注競争に乗り遅れることへの危機感があるためだ。

日本の原発輸出はインドだけでない。中東にも原発の売り込みを図っている。

日本は、昨年暮れのUAEでの原発入札で、赤字覚悟の額で落札した韓国に敗れた。「UAEショック」を受けて、巻き返しを図りたい経済産業省が海外での原発プロジェクト受注に向けた官民出資会社を設置し、「オールジャパン」で中東に原発を売る反転攻勢に出た。

中東の政治情勢は、非常に不安定だ。イラクは戦後復興の途上にあり、イランは、国際社会の反発を尻目に核開発を続けている。イスラム過激派と反米世論が結びつき、中東各国の政権を揺さぶっている。

イランが核武装すれば、サウジアラビアもエジプトも核武装化して、中東地域全体で核武装のドミノ化が広がる可能性がある。

核開発ゲームを続けるイランと自国の安全保障のためには先制攻撃も辞さないイスラエルが、互いに核攻撃に踏み切った場合、中東全域が放射能汚染される悪夢のシナリオが待っている。

今回、日本が原発を売り込もうとしているヨルダンは、イスラエルイラク、シリアと国境を接する地域にある。将来稼動する原子炉が、紛争やテロの標的になれば、その被害や汚染は当該国だけでなく周辺国まで及びかねない。

産油国の中東諸国は、なぜ原発を必要とするのだろうか。

経済成長に伴う人口増加と急増する国内電力需要を満たすには、貴重な収入源の石油を使うのは惜しいため、石油は外貨獲得の手段にし続ける方が合理的だとしている。

そうした政情不安定な地域であるにもかかわらず、日本政府は経済利益の追求に走り、原発の売り込みに前のめりになっている。急激な原発普及は、使用済み燃料など“核のゴミ処理”問題の深刻化も招く。日本政府は、“死の商人”となって核兵器拡散を助長させるつもりなのであろうか。

原発核兵器開発に結び付けないという国際的な核不拡散への配慮が必要であるはずなのに、核軍縮の理念と経済利益の間で、“経済利益”を優先させた菅首相は、国民に対して明確に説明する責任がある。