TPP参加で農業を再生せよ

政府が検討するTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)参加を巡り、賛否両論に割れて大騒ぎとなったため、参加の可否についての結論は先送りとなった。

TPP参加に反対する農水省は、農業生産額が年4兆円も減り、コメ農家がほぼ壊滅するという試算を出した。これに対し、推進派の経済産業省は、輸出が約8兆円増えるとの試算を示した。両省ともそれぞれの立場を正当化しようと懸命だ。

TPPは、関税をなくし、人やモノ、サービスの動きを自由化することで経済成長したい国々の経済統合である。TTPは2006年にシンガポールニュージーランドなど4か国で発効し、米国、豪州など5か国も参加を表明し、9か国の交渉が続いている。

日本が参加しなかったら、日本を囲む国々が自由貿易圏を形づくり、鎖国している日本だけが孤立する。今でも日本は、自由貿易協定(FTA)交渉で出遅れたため、先にEUや米国とのFTAを発効させた韓国より不利な立場に置かれている。

現在の農業保護政策を続けるなら、TPPに参加してもしなくても、農業は衰退するだけである。農業従事者はますます高齢化し、農地を貸たくても後継者がいなく、休耕田が増加するからだ。このままでは将来はなく、抜本改革を迫られている。

TPP不参加であれば、輸出産業はますます海外に進出して、国内は空洞化し、結果として雇用がさらに減少する。農業所得より兼業所得が多い兼業農家でも、兼業先がなくなることだってある。雇用への影響が深刻化するため、不参加のデメリットの方が大きいのだ。

資源のない日本は、貿易立国で生きる道しかない。国内農業保護を優先して、国際的な流れに乗り遅れたら、亡国の道を歩むことになる。通商国家として生きるしかない日本にとって、TPPによる自由貿易圏が出来ようとしているのに参加しないという選択はありえない。日本経済の再生、雇用拡大を考えるなら、TPP参加は、優先的に進めるべき政策だ。

日本の農業保護政策は、外国の農産物に高い関税をかけることで、国内価格を維持してきた。消費者は、割高な農産物を買わされ、そのお金が農家の所得維持に回ることで、農業保護のコストを負担している。

しかしこれからの農業保護は、これから関税ではなく、農家への直接的な支払いで行うべきである。自由貿易を掲げる米国やEUも農業を保護している。農家の所得目減り分に対し、政府が農家に直接お金を支払い、自由貿易と農業保護の両立を図るのが、世界的な潮流になっているからだ。

品質の良い日本のおコメは、割高でも中国のスーパーで飛ぶように売れている。関税をゼロにすれば、価格が下がり、下がった国産米は、輸出でもっと稼げるようになる。米価維持のために行っている減反政策も意味がなくなってくる。減反廃止で、環境維持など水田の多面的機能を守って行ける。

価格が下がると困るのは、農家よりも手数料が減ってしまう農協だ。選挙区が農村部の政治家は、兼業農家が組合員の大半を占める農協の圧力に怖いと思っている。

農産物の輸入自由化につながるTPPに対し、民主党内の反対派は、政治より政局を好む小沢グループの議員を中心に「農林水産業に打撃となり、来年の統一地方選に影響する」との懸念を強めている。国益よりも自分の選挙のことを心配している。

小沢一郎民主党代表の時に、自由貿易協定(FTA)推進を主張し、代償として農家の戸別所得補償制度をマニフェストに入れたはずだ。所得補償だけ実施して、自由貿易を推進しないのは、集票目的のバラマキ政策であると思われてもしかたがない。選挙のことばかり考えて、政局にうつつを抜かし、「持続可能な力強い農業」政策を考えない政治家など、今の日本には要らない。

「守りの農業」ではなく、品質の良いコメを海外に売るなど「攻めの農業」でやって行かないと、農業は再生されない。農業の再生には、大規模な専業農家にお金を集中するなど、競争力を高める政策への転換が必要だ。

TTP問題はむしろ、農業の新たな発展のための抜本改革に取り組む好機ではないのか。