雇用減税で、雇用創出せよ

デフレが止まらない。デフレがさらにデフレを呼んでいる。国内需要の低迷が一層深刻化しているからだ。

大規模な財政出動や金融緩和で、内需を増やそうとしても、企業の生き残りをかけた値下げ競争は激しくなるばかり。企業が値下げ競争せざるを得ないのは、モノが売れないからだ。企業や個人がお金を持っていても、使わないのが、今のデフレである。

そこに急激な円高が追い打ちをかけている。円高では輸出が増えず、雇用を維持することが困難になる。また円高還元で安い輸入品が売れれば、国内のライバル品も対抗して値下げを迫られる。

こうした値下げ競争は、企業の業績をさらに圧迫するため、賃金カットや人員削減が行われる。収入が減る消費者は出費を減らすことから、価格下落がさらに進む。経済活動の縮小が止まらなくなるデフレスパイラルという悪循環に陥る。いわゆる「合成の誤謬」になっている。

低価格を支える現場で、非正規社員が増えると、さらにデフレが加速する。非正規社員やパート労働者のリストラで、専業主婦になる女性や、転職先が見つかない中高年・若者が増加し、ますます需要不足になる。病気になっても医療費が払えない。

さらには改正貸金業法が完全施行され、必要な融資を受けたくても受けられない「借金難民」が500万人も大量に生まれている。中でも大きな影響を受けているのが主婦たちだ。中にはヤミ金にまで手を出す主婦もいる。ヤミ金市場が膨張している。

これまでの政策の数々の失敗の経験から、デフレの原因は、間違いなく、需要不足で、就業者の減少によるものだ。需要拡大には、雇用創出が必要である。

日本の製造業が、次々にグローバル競争で負けるようになったのは、リストラや早期退職勧奨制度によって、技術やノウハウを持った中高年のOBが韓国企業や中国企業に再就職し、それまでに身につけた技術、ノウハウを教え、指導するため、人件費の安い韓国企業、中国企業とまともに競争できなくなっているからだ。雇用が維持されないと、それだけその企業の技術やノウハウが、海外に流出することになる。

こうした雇用状況を重視した政府は、40%の法人税を来年度から35%に引き下げる方向で検討している。その狙いは、急激な円高で海外に流出しかねない国内製造業をつなぎとめるのが主眼になっているからだ。

連合も経団連法人税引き下げ論に、「減税分は国内投資や雇用に回されるべきだ」と同調する姿勢を示している。

しかし法人税を引き下げたとしても、減税分は内部留保や海外生産拠点の拡充に向かうだけで、雇用拡大にはつながらない。韓国を見れば分かる。サムスン電子が過去最大の利益を出したが、若者の深刻な失業率は改善されず、法人税率の引き下げ効果に疑問の声が高まっている。

雇用創出には、むしろ雇用を増やした企業を減税する優遇税制の方が良い。韓国の李明博政権も最近、雇用創出のため、企業の設備投資に対する税制優遇を廃止し、「雇用投資」した企業を減税する税制改革を行おうとしている。

米国のオバマ政権も、雇用創出に企業減税が必要であるとし、8週間以上失業している人を採用した企業に対し税控除による優遇措置を実施している。

日本政府はデフレによる悪循環を、雇用を増やすことで断ち切ろうとしている。消費に回るお金を増やすため、「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を打ち出したが、建設や土木業界の雇用や給料の維持が中心で、新しい産業を創り出す効果など期待できない。

ようやく政府税制調査会が、雇用創出に取り組んだ企業の税負担を軽減する「雇用促進税制」のプロジェクトチームの初会合を開いたが、具体的な制度設計が進んでいない。

収益を上げている割りに雇用数の少ない金融機関や大企業は優遇する必要はない。当然法人税を納めていない赤字企業も対象外である。未就業の人が、例え低額でもできるだけ多く雇用できるようにすべきであり、雇用増で所得税の増加になる。雇用減税の方が需要拡大に、より一層効果的である。また所得格差の是正にもつながる。